粉ミルクの鉄分は母乳の約40倍? 含有量の違いと吸収率

「粉ミルクは母乳の成分に近づけて作られている」という印象をお持ちの方も多いと思います。確かに、それは粉ミルクの開発における重要な方針のひとつだと思います。

しかし、ミネラル成分に注目すると、粉ミルクには母乳よりもはるかに高濃度で含まれているものがあることがわかります。

特に「鉄」については、その差が顕著です。

母乳と粉ミルクの鉄分比較

当社で測定した母乳中の鉄の平均濃度は0.23mg/Lでした。
これは、厚生労働省の検討会が参考にしているアメリカ・カナダの食事摂取基準における母乳中鉄濃度(0.35mg/L)と比較しても大きな乖離はなく、自然なばらつきの範囲といえるでしょう。

ちなみに、牛乳に含まれる鉄分も約0.2mg/L程度とされており、哺乳類の乳に含まれる鉄の濃度はおおむねこのあたりであることがわかります。

では、粉ミルクの鉄分はどの程度含まれているのでしょうか。

以下に、主要な粉ミルク製品の鉄含有量(13.5%調乳液として計算)を示します:

  • ほほえみ:約8.1mg/L
  • ぴゅあ:約8.4mg/L
  • アイクレオ:約9.5mg/L

※すべて13.5%調乳液として算出。正確な調整率は商品により異なる可能性があります。

こうして見ると、粉ミルクの鉄濃度は母乳の約40倍にも達していることがわかります。

なぜこんなに差があるのか? 吸収率の違いに注目

この大きな差は「粉ミルクは鉄を多く含みすぎていて危険なのでは?」と感じさせるかもしれません。
しかし、これは吸収率の違いを補うために設計されたものと考えられます。

一般に、母乳中の鉄の吸収率は20~49%とされており、これに対し粉ミルクの鉄の吸収率は5%程度と言われております。

つまり、母乳に含まれる少量の鉄でも高い吸収効率によって赤ちゃんの体に十分な鉄が取り込まれるのに対し、粉ミルクの場合は吸収されにくいため、あらかじめ多めに鉄を配合しておく必要があるのです。

実際の鉄吸収量をざっくり計算してみると:

  • 母乳:0.23mg/L × 49%(吸収率)= 0.12mg/L 吸収
  • 粉ミルク:8.6mg/L × 5%(吸収率)= 0.43mg/L 吸収

吸収量にしても、粉ミルクの方がやや多くなるよう調整されています。

鉄の高濃度には理由がある

粉ミルクに含まれる鉄分が母乳と比べて極めて多いのは、その背景に吸収率の違いというしっかりとした理由があります。

赤ちゃんにとって鉄は、貧血予防や脳の発達に欠かせない重要な栄養素。それを安全かつ効果的に補えるよう、粉ミルクは鉄が不足しないように設計されているのだとわかりました。

鉄の耐用上限量について

現在のところ、乳児に対する鉄の耐容上限量(UL:Tolerable Upper Intake Level)は設定されていません。その背景には、過剰摂取による明確な有害性が十分に確立されていないことがあります。

しかしながら、過去の報告の中には、過剰な鉄投与により身体への影響が示唆されている例も存在します。たとえば、低出生体重児に対して1日13.8mgの鉄を28日間投与した研究では、その後の20週時点において、赤血球内のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性の低下が認められました。さらに、鉄の過剰摂取によって亜鉛や銅といった他の必須ミネラルの吸収が阻害される可能性についても報告されています。これらのミネラルは、成長や免疫機能、酵素活性などにおいて極めて重要な役割を果たしており、鉄とのバランスが乱れることで健康に影響を及ぼすリスクが懸念されます。

しかし、粉ミルクの場合、13.8mgの鉄分を摂取するにはおよそ1.5Lもの量を飲まなければなりません。そのため、仮に100%粉ミルクで育てていたとしても、実際にこの量を超えて摂取することはほとんどないと考えられます。

※新生児の1日の哺乳量は0.78Lとされています。

ただ含有量を見てみると、粉ミルクには大人が摂取すべき量とほぼ同じくらいの鉄分が含まれているのだということを、改めて実感しました。

鉄の目安量について

あくまで目安量ですが、0.5mg/日が設定されています。

しかし平均的な母乳であれば1.5L-2L飲まないとその量に達しません。

アメリカ・カナダの食事摂取基準の採用値(0.35mg/L)に基準哺乳量(0.78L/日)を乗じて得られる0.273mg/日を丸めた0.5mg/Lを目安量としているようです。

だいぶ丸めてますね。丸めて約2倍になってます。0.3mgでよかったのでは…?

調べた背景について

今回、「母乳と粉ミルクに含まれる鉄量の違い」について調べてみようと思ったきっかけは、毛髪ミネラル検査の結果では、全年齢層の中で、0歳児における鉄の濃度が最も高いという傾向が見られたことです。

毛髪ミネラル検査は体内のミネラルバランスを評価するひとつの方法であり、必ずしも体内全体の状態を直接示すわけではないとはいえ、興味深い指標となります。

「なぜ0歳児の鉄濃度が特に高く出るのか?」という疑問が湧いたことをきっかけに、新生児期の鉄摂取源である母乳や粉ミルクに注目してみることにしました。

特に粉ミルクに含まれる鉄分が母乳と比較して非常に高い(場合によっては40倍以上)という結果に、「これは過剰摂取のリスクに関わるのではないか」という不安も一瞬よぎりました。しかし、その一方で、鉄の吸収率や赤ちゃんの発育における鉄の必要性などを調べるうちに、その配合には明確な栄養学的意図があることがわかってきました。

こうした調査の中で得られた情報を整理し、少しでも同じような疑問を持つ方のお役に立てればと思いまとめました。

ご参考になれば幸いです。

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