医療先進国、キューバ

先月、神奈川県の医師達とベトナムのダナンがん病院を訪問した。
ふと、ベトナム人医師がスペイン語で話している声が耳に残った。
ベトナム医師は従来ロシア語圏や日本等への留学経験者が多いはずなので不思議に思って、どこでスペイン語を学んだのかを聞いてみた。
その若い医師はキューバに留学したと言う。キューバに医学留学? 直ぐにはピンと来なかった。遠いカリブの新興国の医療制度に対する知識がほとんど無かったからである。

しかし、興味半分にキューバの医療制度について調べてみると驚きの連続だった。
何とキューバこそ小さな医療大国ではないか。
特に、英国のブレア元首相はキューバの医療制度を絶賛して何度も医療視察チームを派遣しているほどだ。
キューバは人口の1100万人、一人当たりGDPは1万ドルの中進国であるが、平均寿命は77歳と先進国並みを誇り、小児死亡率は米国をも下回る。
しかも医療費は全額無料である。

夢のようなキューバの医療制度の秘密は一体何なのか? 
数冊の書物を取り寄せにわか勉強してみると、プライマリ・ケアーを実践するファミリー・ドクター制度が根幹にありそうだ。
120世帯、700−800名に一人の専任医師が地域に駐在して看護師と組んで診療に当たる制度である。

①コンスルトリオと呼ばれる質素な診療所兼住居に駐在し各家庭を訪問診療しながら主治医の役割を果たしている。
ファミリー・ドクターが住民の健康状態を熟知して予防医学を実践しているので病気の早期発見と適切な処置が可能なわけだ。

そこでより専門的な治療が必要と判断された場合は、地区専門医療所②ポリクリニコへの紹介状が準備される。

更に、病状に応じて、③市町村病院、④州病院、⑤全国病院と5段階に分かれて適切に治療が行われる仕組みである。

無論、各レベルでの患者の治療が最優先で医師や看護師の間の緊密な連携が行われている。

キューバの医療制度の素晴らしさは自国民への医療サービスだけではない。
恵まれない発展途上国へ数万人の医師を派遣して積極的に医療支援外交を展開している。
2005年のパキスタン北部大地震には900名の医療救助隊を派遣して、73%の治療がキューバの医師だけで行われたそうである。
タヒチ地震、インドネシア地震でもキューバ医療チームの大活躍は大いに注目されている。
1982年アメリカからテロ国家指名され未だ経済制裁を受けるキューバ。
更に1990年代初頭のソビエト連邦崩壊以降、壊滅的な経済的な打撃を受けている。
そのキューバに何故このような底力が残っているのか? 何故、ここまで他の貧しい後進国を医療支援できる余裕があるのか?
個人的には、葉巻、野球とバレーボールなどしか余り知識が無かったキューバであるが、極めて奥深い国であることが理解できた。

一方、我が国の医療制度は崩壊寸前である。
今後、キューバの医療制度は大いに参考にできそうな気がする。いつか医療制度の視察にキューバに出かけてみたいと思う。

参考文献:

“世界がキューバ医療を手本にするわけ”(吉田太郎著)

“キューバ医療の現場を見る”(キューバ友好円卓会議)

投稿者:

ら・べるびぃ予防医学研究所

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