鉛
鉛は、地殻の表層部には重量比で0.0015%程度存在し、36番目に多い元素です。鉄に比べて1.4倍重い元素で、青みを帯びた白色または銀灰色の光沢をもつ金属で、空気にふれると酸化されて鉛色に変色します。比較的柔らかく、加工が容易なため、古代から人類と深く関わってきた金属で、現在も鉛はその化合物とともに多方面で利用されています。鉛は、主にバッテリー(蓄電池)やはんだの原料として使われています。
汚染・蓄積・排泄
人は日常生活において、環境中に広く存在する鉛に絶えず曝露されています。食品中には1kgあたり約0.2mgの鉛が含まれており、職業的あるいは特殊な鉛曝露がない通常の人では、食物と水から1日約0.3mg、大気から経気道的に約0.03mgの計0.33mgの鉛を摂取しているといわれています。
鉛は、人体への蓄積性があることから、消化管からの吸収率が高く、最も感受性が高い乳児の代謝研究結果から「耐容一日摂取量(TDI)」が、体重1kg当たり0.0035mgと算出され、これに基づいて水道水質基準や水質環境基準が設定されています。鉛の化合物によって毒性は異なりますが、高濃度の鉛による中毒の症状としては、「食欲不振」、「貧血」、「尿量減少」及び「筋肉の虚弱」などがあるといわれています。
経口摂取された鉛は成人ではそのうちの約10%、小児では約40~50%が消化管から吸収され、カルシウムや鉄の摂取量が少ないと鉛の吸収が促進されるといわれています。カルシウムは鉛と競合して消化管における共通の輸送機構を利用するため、カルシウムが鉛の吸収を抑制するといわれています。また、経気道的に吸入された鉛は約30%が吸収され、その8%弱が気管に沈着するといわれています。吸収された鉛は血液中に移行し、そのうちの大部分が赤血球のヘモグロビンに結合します。吸収された鉛は、最初肝臓や腎臓に分布しますが、最終的に体内に含まれる鉛の約90~95%が骨に蓄積し、一部の鉛が脳に蓄積するといわれています。鉛は腎臓から尿に含まれて排泄されますが、骨に蓄積された鉛は、その濃度が半分になるには約5年かかり、長く体内に残存するといわれています。
水道管と鉛
飲料水中の鉛は自然界から溶け込んだ鉛がわずかに存在することもありますが、その汚染源としては主として給水管に使用されている、鉛管、ハンダ、継手、銅合金の給水器具、その他鉛を含有している配管材料などからの溶出によるものが多いと考えられてきました。
我が国では、鉛管は管内に錆が発生せず、可とう性、柔軟性に富み、加工・修繕が容易であるという特性で、創設期から近年に至るまで、給水管用として使用されてきました。一方、近年鉛管からの鉛溶出が社会的な問題となってきたため、厚生労働省では1989年に「給水管に係る衛生対策について」を通知して、給水管からの鉛溶出について規制を行いました。現在は、水道法の水道水質基準で鉛の溶出許容量を管理していますが、平成17年の調査で、未だ11000kmを超える鉛配水管が残存している状況であるといわれています。
法規制など
規制法律名 | 規制項目 | 規制値 |
毒物及び劇物取締法 | 医薬用外劇物(鉛化合物) | - |
水道法 | 水道水質基準値 | 0.01mg/L以下 |
環境基本法 | 水質汚濁に係る環境基準(健康項目) | 0.01mg/L以下(鉛として) |
環境基本法 | 地下水の水質汚濁に係る環境基準 | 0.01mg/L以下(鉛として) |
環境基本法 | 土壌の汚染に係る環境基準 | 0.01mg/L以下(鉛として) |
水質汚濁防止法 | 有害物質(排水基準) | 0.1mg/L |
土壌汚染対策法 | 特定有害物質(土壌溶出量基準) | 0.01mg/L以下 |
土壌汚染対策法 | 特定有害物質(土壌含有量基準) | 150mg/L以下 |
労働安全衛生法 | 管理濃度 | 0.05mg/m³(鉛として) |
労働安全衛生法 | 名称などを通知すべき有害物 | - |
労働安全衛生法 | 鉛中毒予防規則 | - |
食品衛生法 | 残留農薬基準(例えばばれいしょ) | 1.0ppm(鉛として) |
食品衛生法 | 残留農薬基準(りんご) | 5.0ppm(鉛として) |
参考
■化学物質ファクトシート「230.鉛及びその化合物」 環境省
■化学物質の環境リスク評価 第8巻 「鉛」 環境省
■詳細リスク評価書「鉛」暫定版 化学物質リスク管理研究センター