自閉症のワクチン原因説
2014年9月にイタリアミラノの裁判所はグラクソ・スミスクライン製薬会社(GSK)の6種混合ワクチンを接種した幼児に対して、ワクチンの防腐剤に使用されているチメロサール(水銀を含んだ防腐剤)やアルミニウムが原因で自閉症を発症したとして判決を下しました。その一方で、アメリカ連邦裁判所はワクチンが自閉症を引き起こさなかったと認定しています。
各国の裁判所では異なる判決が出ていますが、ここでは医学的な背景をお話ししたいと思います。
もともと、このワクチン原因説の発端は1998年にイギリスのWakefield氏ら13人の研究者がLancet誌にMMRワクチン(新三種混合ワクチン)に起因すると思われる自閉症12例についてワクチンが自閉症の発症に関連があると発表したのが最初です。
この発表は12例とわずかな症例であったため、研究の再現を求められましたが拒否しています。
また、2004年にLancet誌が被験者である子供たちが、これらのワクチン訴訟に関わっていたことが判明、その後、10人の執筆者は解釈の一部を撤回、Wakefield氏のMMRワクチンによる障害が麻疹ウィルスだとしていた主張も研究室でウィルスの痕跡が見つからないことなどいろいろな事実が判明しています。
2005年に横浜市港北区による疫学調査で、1988年から1996年までの間に同区で生まれた全小児31,426例について、出生年ごとの自閉症発生率(7歳までに自閉症と診断された子どもの率)の年次推移を調べました。
1988年から1992年生まれの子どもの中には1歳でMMRの接種を受けた子どもが含まれます。横浜市におけるMMR接種率は、1989年から1993年まで順に69.8%、42.9%、33.6%、24.0%、1.8%、また、1993年から1996年生まれの子どもの中にはMMRを受けた子どもはいませんでした。
もし、MMRワクチンで自閉症が増えるならば、ワクチン接種中止後に自閉症は減少するはずですが、1992年以前の出生児の1万人あたりの自閉症発症率47.6~85.9に対し、ワクチン接種中止後の自閉症発生率は96.7~161.3と増加していることを発表しました1)。また、このような否定的な論文は他にも多く発表されています。
その後、MMRワクチン訴訟に対するWakefield氏への弁護士による高額な私的資金援助や訴訟準備者から金銭授与などが判明したことで、2010年にWakefield氏ら論文は虚偽のものとして撤回され、Wakefield氏は医師免許も剥奪さています2)。
このように、MMRワクチンと自閉症の関係はほぼ否定される状況となりました。しかし、この過程で2003年、Wakefield氏はMMRワクチンに含まれるウィルスが自閉症の原因ではなく、ワクチン中に含まれるチメロサールが原因であると主張しはじめ現在に至っています。
この仮説も様々な研究者からチメロサ-ル含有ワクチンが自閉症と無関係でありとの報告が発表され、世界保健機関(WHO)ワクチン安全委員会、アメリカ疾病予防管理センター (CDC)
欧州医薬品庁(EMEM)、国内関連学会などがワクチン中のチメサロールと子供の自閉症の間に決定的ない証拠はないと結論づけています3-5)。
1)No effect of MMR withdrawal on the incidence of autism: a total population study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15877763
2)RETRACTED: Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children.
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(97)11096-0/abstract
3)Thimerosal and the occurrence of autism: negative ecological evidence from Danish population-based data.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12949291
4)Autism and thimerosal-containing vaccines: lack of consistent evidence for an association.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12880876
5)平成21年10月18日第3回安全対策調査会(資料2)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/dl/s1018-2f.pdf
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