自閉症とミネラル :キレートサプリメントにより改善のみられた一症例
2007年3月第77回 日本衛生学会総会
東邦大学 医学部 荒井 一歩
目的
1943年に自閉症が発表されてから今日まで、さまざまな研究がなされてきた。しかし、自閉症に対し画期的に効果のある治療法は確立していない。近年では、自閉症の原因の一つとして、人体への有害金属の蓄積と必須ミネラル欠乏などの栄養状況の悪化が挙げられている。栄養状況の悪化が脳の正常な生理活動を阻害している可能性があり、それが自閉症状と関連があるのではないかという仮説に基づき研究が進められている。今回、自閉症とミネラルとの関係、キレートサプリメントによる効果について一症例を通して考察する。
方法
自閉症と診断された一症例の後頭部毛髪の頭皮に近い部分を約3cm(0.25g)切り取り、そこから毛髪中の有害金属と必須ミネラル、必須と想定されるミネラルの計26種類のミネラル濃度を測定した。それらのレベルから体内の有害金属蓄積度・必須ミネラルの過不足を推測し、その後キレートサプリメント(アミノ酸キレートサプリメント)により、体内の有害金属の排出、必須ミネラルの補給を行った。初回の毛髪ミネラル検査後からサプリメントを摂取し、半年後、1年後の計3回毛髪ミネラル測定を行い、自閉症とミネラルの関係、キレートサプリメントの効果について検討した。
結果
初回の検査では、有害金属ではベリリウム、アルミニウムの2種が、必須または必須と想定されるミネラルではマンガン、鉄、バナジウム、コバルトが高い値を示し、2回目、3回目ではこれらの値がほぼ基準値まで下がり安定した値を示した。また本症例ではキレートサプリメントを受けてから、暴力が減少しパニック時間が短くなった、歌が増えた、言葉の繰り返しや身振りが増えた、学校行事に参加できるようになったなど、症状の改善が見られた。
考察
今回の7歳児の症例では、初回の検査で、各種ミネラルの複合汚染が考えられた。キレートサプリメント摂取後の2回目、3回目の検査ではこれらの異常値がほぼ基準値まで下がり安定した値を示した。またこれに伴い、暴力の減少、パニックの減少、言葉の繰り返しが増える、座っていられるようになるのどの日常症状の変化が見られた。直接的には自閉症の原因とミネラルを結びつける事はできないが、いくつかのミネラルは脳内神経伝達物質合成に重要な役割を担い、脳の興奮・鎮静などに作用する事が知られている。自閉症とミネラルには何らかの関係が存在する事が示唆され、自閉症に確たる治療法が存在しない現在、キレートサプリメントは、効果を期待できる治療法の選択肢の一つと考える。
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